本を買うたび青い栞を

本を一冊買うと、店員がレジ横から細長い青い栞を一枚取って、袋に入れる前に本のあいだへ挟んだ。

また青だ、と亮太は思った。

家の机の引き出しに、同じ青い栞が何枚もある。この店で本を買うたびにもらうやつだ。使うわけでもないので、たまっていく一方だった。

駅と住宅街のあいだにある小さな本屋だ。チェーン店ではなくて、間口は狭いが奥に長い。亮太は月に二、三冊、仕事帰りや休日にここで買う。読書家というほどではない。話題の本や、気になった小説を、なんとなく手に取る程度だ。

会計のとき、この店では紙の栞を一枚くれる。色は何種類かあって、赤や黄色や緑もある。ほかの客が違う色をもらっているのを、見たことがあった。

なのに、自分はいつも青だ。

最初は、たまたまだと思っていた。でも机を整理していたとき青い栞ばかり六枚も出てきて、さすがにこれは偶然じゃないんじゃないかと気になった。

次に来たとき、亮太は少しだけレジ横を意識した。

前に並んでいた女性客には、店員が黄色い栞を渡していた。その次の男には赤。そして亮太の番になると、店員は当たり前のように青を取った。迷う様子もない。やっぱり青だ、と思ったが、「どうして青なんですか」と聞くほどのことでもなくて、そのまま帰った。

それからは、来るたびに少し気にするようになった。

今日は赤が来ないかな、と思っている日も、青だった。緑の日もない。何を買っても、栞は青。そのうち亮太はどの本を買うかより、今日は何色が来るかをひそかに楽しみにするようになっていた。とはいえ、毎回青なので、楽しみというより確認に近い。

ある日、レジに見慣れない若い店員が立っていた。新人らしい。

亮太が文庫を一冊出すと、その新人は、レジ横から赤い栞を取って、ぱっと本に挟んだ。

「あ」

思わず声が出た。

「何か?」と新人が聞いた。

「いや、何でもないです」

亮太は赤い栞の挟まった本を受け取って、店を出た。初めての赤だった。

家に帰って、机の上に本を置いた。引き出しには青い栞。そこへ、赤が一枚。ずっと赤が来ないかと思っていたはずなのに、いざ青の中に赤が一枚混じると、なんだか妙に落ち着かなかった。

次に本屋へ行くと、いつもの店員がレジにいた。四十代くらいの女性だ。

亮太は本を買いながら、思い切って聞いてみた。

「あの、なんで、いつも青なんですか」

店員は少しきょとんとして、それから、ああ、という顔をした。

「最初に青を渡したから、青が好きな人なのかなと思って。それからずっと青にしてました」

「え、いや、別に青が好きなわけじゃないんですけど」

「そうなんですか」

店員は、少し意外そうだった。亮太のほうも、勝手に意味を探していたのがばかばかしくなった。

「じゃあ、これからは」と店員が言った。「今日は何色にします?」

亮太は、栞の並んだレジ横を見た。赤、黄色、緑、青。せっかく好きに選べる。

「……青で」

言ってから、自分でも、あ、と思った。

店員が、ちょっと笑った。

「やっぱり好きなんじゃないですか」

「いや、そういうわけじゃ、ないんですけど」

亮太は青い栞の挟まった本を受け取った。何色でもよかったはずなのに、並んだ色を見た瞬間、手が青を選んでいた。理由は自分でもよく分からない。

店を出ると、外はまだ少し明るかった。亮太は袋から本を出して、挟まった青い栞を、なんとなく指で持ち直してから、また閉じた。

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