店員に「今日はいつものじゃないんですね」と言われた

弁当を選んでレジに出したら、店員が言った。

「今日はいつものじゃないんですね」

私は「あ、はい、たまには」と反射的に笑って、会計を済ませた。それから店を出て、少し歩いてから、ふと思った。

いつもの、って何だ。

昼休みに、会社の近くのこの弁当屋に、週に二、三回は来る。今日はなんとなく鮭の弁当を選んだ。店員が「いつものじゃない」と言うということは、私には、いつもの弁当がある、ということになる。だが、自分ではそんな自覚がまるでなかった。

私は毎回けっこう悩んで選んでいるつもりだった。肉にするか、魚にするか。ご飯は普通盛りか、大盛りか。今日は昨日重かったから、少し軽めにするか。棚の前で、そんなことを考えて、その日の気分で決めている。決めているつもりだった。

翌日、私は少しだけ意識して店に入った。

今日は、絶対に、いつもとは違う物を買う。そう思って、棚をじっくり見た。

からあげ弁当。昨日も、揚げ物だったな。パスタ。これは、少し量が物足りない。幕の内。悪くないが、苦手な煮物が入っている。そうやって、一つずつ、消去していく。

気づくと、私は、豚のしょうが焼き弁当の前に立っていた。

たぶん、これが、私の「いつもの」だった。棚の前で、あれこれ悩んだ末に、結局、しょうが焼きに戻ってくる。今、その瞬間を、自分で目撃してしまった。私は少しおかしくなった。毎回、これだけの選択肢の中から、真剣に選んでいるつもりで、着地点は、ほぼ同じだったらしい。

午後、同じ部署の田中に、なんとなく聞いてみた。

「俺って、昼、いつも何食べてるように見える?」

「しょうが焼きじゃないの、あの弁当屋の」と、田中は、パソコンから顔も上げずに即答した。

「即答だな」

「だって、いつもそれじゃん」

自分には、日替わりの選択肢があると思っていたのは、どうやら、私だけだったらしい。ちなみに、その田中も、昼はいつも、同じメーカーの同じ味の栄養ドリンクみたいなやつを飲んでいる。人のことは、言えないのだ。

次の日、私は意地になった。

今日こそ、しょうが焼きは、買わない。私は、普段なら選ばない豚キムチ弁当を、あえて手に取った。レジで、店員が「お、今日は攻めましたね」というような顔をしたが、何も言わなかった。

食べてみると、普通においしかった。辛くて、ご飯が進む。ただ、特別、感動するというほどでもない。ああ、豚キムチだな、という味だった。悪くないが、明日もこれを食べたいか、と言われると、それほどでもない。

そして、その翌日。

私は、また店に入って、しょうが焼き弁当を手に取っていた。

昨日の豚キムチが、まずかったわけではない。ただ、なんとなく、手が、しょうが焼きへ伸びていた。結局、これなんだよな、と、自分でも少し笑った。豚キムチという寄り道をして、ちゃんと、いつもの場所へ帰ってきた。

数日して、また店へ行った。

私が入っていくと、店員がこちらを見た。何か言われる前に、私は先に言った。

「今日は、いつもので」

店員は、少し笑って、しょうが焼き弁当を袋に入れた。

「そうだと思いました」

「分かりますか」

「まあ、はい」

私は、いつもの弁当を受け取って、店を出た。今日も、しょうが焼きだ。明日どうするかは、分からない。たぶん、また悩んで、また、これを選ぶのだろう。

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