帰宅して、なんとなくレシートを眺めていたら、下のほうに見慣れない文字があった。
「リフレッシュ 108円」
そんな物、買ったっけ、と思った。
仕事帰りに、いつものドラッグストアに寄って、いくつか買った。袋の中を確認する。詰め替え用の洗剤、ティッシュの箱、歯磨き粉、それに、レジ横でなんとなく手に取った小さな袋を一つ。どれも、覚えのあるものだ。「リフレッシュ」なんていう商品を、意識して選んだ記憶はない。
金額はたしかに合っている。点数も、買ったぶんとぴったりだ。知らない商品を余計に請求されているわけではない。ただ、レシートの名前と、袋の中身が、うまく結びつかない。だから、まあ、いいか、とそのときは思った。レシートをそのへんに置いて、忘れた。
数日後、また同じ店へ行った。
今度は、飲み物と、ウェットティッシュと、電池を買った。それと、レジ横でまた小さな袋を一つ、ついでに取った。四点だ。帰ってレシートを見ると、ちゃんと四行ある。数は合っている。合っているのだが、その中に、また、あった。
「リフレッシュ 108円」
これは、少し気になった。前と、買った物が違う。共通しているのは、リフレッシュ、という謎の一行だけだ。金額も、やっぱり合っている。損はしていない。していないのだが、では、この四つのうち、どれがリフレッシュなんだ。
私は袋の中身とレシートを一つずつ照らし合わせてみた。飲み物には、それらしい名前が載っている。電池も、電池だと分かる名前だ。ただ、残りが、はっきりしない。ウェットティッシュの行も、妙な略称になっていて、これがそうなのか、リフレッシュのほうがそうなのか、見ているうちに分からなくなった。結局、どれが「リフレッシュ」なのか、決められなかった。
それからは、会計のたびに、少しカゴの中を意識するようになった。
今日は五点買った。レシートも五点。数はいつも合う。ということは、この五つのどれかが、リフレッシュだ。飲み物か。入浴剤か。それとも、あのレジ横の袋か。私は勝手に、これじゃないか、と当たりをつける。ところが、飲み物を買わなかった日にも、また「リフレッシュ」が載っている。当たりが、すぐ外れる。
分からない。分からないと、余計に気になる。
おかしなもので、一度気になり始めると、レシートのほかの商品名まで、急に読むようになった。すると、これが、けっこう分からない。自分で買ったはずなのに、レシートの文字だけ見ると、半分くらい、何のことだか分からない。妙な略称だったり、シリーズ名だけだったり。今まで、一度も気にしていなかった。
一度、レジで店員に聞こうかと思った。
でも、その日はレジが混んでいた。私の後ろにも、何人か並んでいる。108円の商品の名前を、わざわざ聞くために、列を止めるのも気が引けて、やめた。
次の日は、聞くつもりで行った。ところが、その日のレシートには「リフレッシュ」がなかった。私はなぜか少し残念な気持ちになった。そういえば、その日は、レジ横で何も取らずに、まっすぐ会計した気がする。
そのまた別の日。
また「リフレッシュ」が載っていた。
今日こそ、と思って、私はレジがすいたのを見計らって、レシートを持って店員のところへ行った。若い店員だった。
「すみません。これ、リフレッシュってあるんですけど、これ、何の商品ですか」
店員は、レシートを受け取って、少し見た。それから、私が持っていた袋の中を、ちらっと覗いて、一つの商品を指した。
小さな、ミント味ののど飴だった。レジ横に、いつも積んであるやつだ。
「これですね。この商品、うちの登録上、シリーズ名が『リフレッシュ』になってるんです」
「これ……ですか」
「はい。のど飴なんですけど、商品名じゃなくて、シリーズのほうで出ちゃうことがあって」
それだけだった。
私が何週間も、あれは何だ、どれのことだ、と考えていた「リフレッシュ」の正体は、レジ横でなんとなく毎回つかんでいた、のど飴だった。しかも、店員は、それを一秒で答えた。私は、拍子抜けして、「ああ、なるほど」とだけ言って、店を出た。
数日後、また買い物をした。
帰り道、レシートを見ると、今度は別の行に、こうあった。
「快適生活 あんず……」
また、分からないやつだ。快適生活。何を買った時の名前なのか、見当もつかない。
私は一瞬、足を止めた。
でも、今日はもう、いいか、と思った。どうせ、聞けば一秒で終わる、しょうもない答えなんだろう。私はレシートをコートのポケットにしまって歩き出した。
数歩、歩いた。
やっぱり気になって、私はもう一度、ポケットからレシートを取り出した。

