買い物を終えてレジのほうへ行くと、有人レジには、どこも数人が並んでいた。
その隣に、セルフレジが並んでいる。何台か空いていた。有人レジの列に並ぶか、それとも、セルフレジにするか。私は一瞬迷った。
正直、セルフレジは、まだ少し苦手だ。何度か使ったことはあるが、あの、機械に急かされる感じが、どうも落ち着かない。ただ、ちょうど後ろから、別の客が来た。有人レジの列に並ぶと、その人も後ろに続くことになる。私はなんとなく、空いているセルフレジのほうへ、すっと入ってしまった。
画面が、私に聞いてきた。
「レジ袋を購入しますか?」
いきなり、それを聞くのか、と思った。まあいい。私はマイバッグを持ってきているので、「購入しない」を押した。ここまでは、分かる。
商品を、一つずつ、読み取っていく。
牛乳。ピッ。パン。ピッ。豆腐。ピッ。バーコードを機械にかざすと、軽い音が鳴って、画面に商品名が出る。意外と、簡単じゃないか、と思った。この調子なら、店員を呼ぶことも、なさそうだ。
ところが、ばら売りのじゃがいもを手に取ったところで、手が止まった。
量り売りの棚から、袋に自分で入れてきたやつだ。バーコードが、ない。当たり前だ。これは、機械にかざしても、何も起きない。
画面を見ると、「バーコードのない商品」といったボタンがあった。それを押すと、野菜の一覧のようなものが出てきた。この中から選ぶらしい。私は、じゃがいもを探した。探しているうちに、なぜか、別の画面に変わった。ポイントカードが、どうのこうの、と出ている。
なぜ、急に、ポイントの話になる。
私は内心少し慌てた。だが、顔には出さない。後ろに、また一人、客が並んでいるのが、気配で分かる。ここで、おろおろするわけにはいかない。私は、いかにも、全部分かっています、という顔で、落ち着いて、画面の「戻る」らしきボタンを押した。
すると、今度は、最初の画面に戻ってしまった。読み取った商品は、ちゃんと残っている。だが、じゃがいもを選ぶ、あの画面が、どこへ行ったのか、分からなくなった。
もう一度、さっきのボタンを探す。ない。似たようなボタンを押す。違う画面。戻る。また違う。
心の中では、ちょっとした騒ぎだ。違う、これではない。さっきの野菜の画面はどこだ。なぜ、こんなに、ボタンがあるんだ。だが、表情だけは、平静を保った。ゆっくりと、余裕のある手つきで、画面に触れる。傍から見れば、慎重に操作している、落ち着いた年配の男、に見えているはずだった。
そのとき、後ろに並んでいた客が、離れていった。
しまった、待たせすぎたか、と思った。だが、その人は、隣の空いたレジのほうへ、さっさと移っただけだった。私に、早くしろ、という顔をしたわけでもない。ただ、空いたから、そっちへ行った。急かされていると勝手に思っていただけだった。
それで、少し、肩の力が抜けた。
もう、いいか。私は、画面の隅にある、店員呼び出しのボタンを、押した。
すぐに、若い女性の店員が来た。
「はい、どうされました?」
「いや、この、じゃがいもがね、バーコードがなくて」
「ああ、量り売りのやつですね」
店員は、画面を、一度、二度、触った。すると、あっという間に、さっきの野菜の一覧が出てきて、じゃがいもが選ばれた。私が、何画面もさまよっていたものが、一瞬で片づいた。
「ここまでは、分かってたんだけどね」と、私は、つい、言い訳した。
「これ、分かりにくいですよね」と、店員は、普通の口調で言った。「よく、ここで止まる方、いますよ」
それだけ言って、店員は、また持ち場へ戻っていった。特別、私を、気の毒がるでも、褒めるでもなかった。それが、かえって、ありがたかった。
会計を済ませて、袋を提げた。少し、疲れた。
だが、考えてみれば、詰まったのは、あのじゃがいもの一か所だけだ。あとは、牛乳も、パンも、豆腐も、自分で読み取った。まあ、そう悪くもなかったな、と思った。
数日後、また同じスーパーへ来た。
レジのほうを見る。有人レジと、セルフレジ。私は、少し迷って、それから、セルフレジのほうへ、向かった。
かごの中には、また、量り売りの、袋詰めの野菜が入っている。今日は、これを、自分で選べるだろうか。分からない。また、途中で止まるかもしれない。
それでも、私は、空いているセルフレジの前に立って、最初の商品を、手に取った。

